花嫁着物の専門店「CUCURU」 コーディネーター 加藤未帆さん
どんな着物もコーディネート次第で誰もが似合う
ウエディングドレスも良いけど、白無垢や色打掛など、日本の伝統的な花嫁姿も素敵ですよね。でも一般的に、和装はなかなか着る機会も少なく、「おしゃれに着こなせるか不安」「そもそもどんな基準で選べば良いの?」など、戸惑ってしまう方も多いのではないでしょうか?そんな不安や疑問を解決するために、花嫁着物の専門店「CUCURU」コーディネーターの加藤未帆さんに、プロのアドバイスやスタイリング例などを聞いてみました。
「似合う」よりも「好き」で選ぼう
ー普段からよく着物を着るという方は少なく、結婚式で和装が着たいと思っても、どれが似合うのか、何を選べば良いのか分からないお客様も多いと思います。和装の選びのアドバイスをお願いします。
加藤 多くの方は、普段から自分に似合う色、似合わない色を自覚されていて、色打掛もその基準で選びがちです。ただ、和装の場合は「意外!」と思うような色も似合ったりするので、新婦様が直感で「好き」と思うものをおススメします。
和装はベースとなる色はあるものの、柄が入っていたりします。その柄の中の一色を小物などに取り入れたり、掛下や半襟を新婦様の肌の色や雰囲気に合わせて選ぶことで、ほとんどの着物をどなたにも似合うようにコーディネートできると思います。また、それがコーディネーターの役割だと思っています。
試着では、お客様が着たいものも選んでいただきますが、お客様の肌の色やお顔立ちなどを見ると「あれがお似合いになりそう」とインスピレーションが湧くので、私のおススメもお伝えしています。
【Case1】かわいさ求める新婦にあえて渋い打掛を
コーディネート次第で、だいたいの着物が似合うのであれば好きなものを選んで良いということですね。着る人に合わせたプロのコーディネートの例を教えてください。
加藤 元々、ピンク系をご希望されていたお客様に、鶴と松の柄が印象的な白緑色の打掛をご提案したことがあります。最初は、ピンクやオレンジなどかわいらしい色味の打掛を選んでいましたが、「こちらもいかがですか?」とご提案してご試着いただいたところ、付き添われていたお母さまにも「これがいいね」と決めていただけました。お客様にとっては“意外”なご提案だったかもしれませんね。
私がこの打掛をご提案した主な理由は、お客様の肌の色がブルーベースで緑が似合うと思ったこと、選んでいた式場が格式ある料亭で、古典的な柄と相性が良いという点です。ただ、その打掛はかわいらしいというよりも渋い雰囲気なので、お客様に合わせたコーディネートを工夫しました。
掛下は新婦様の好きな色でもある淡い紫、半襟を花柄の淡いオレンジ色、胸元の小物を黄金色と、お客様の雰囲気に合う淡い色でまとめました。さらに、花をモチーフにしたヘッドドレスを付けることで、新婦様のかわいらしさをより一層引き出しました。
このお客様は白無垢も借りていただき、掛下は色打掛と同じく淡い紫のコーディネートです。実は式場の提携衣裳店で白無垢を試着した時に「雪だるまみたい・・・私には和装似合わないのかも」と自信をなくされていたそうですが、実際には、似合わないどころか、とても素敵に着こなしていらっしゃいました。当店でのご試着の際、着物の質感や羽織った時のシルエットなど、お客様にぴったりなご提案することができ、ご納得いただけたので安心して当日を迎えていただけたのではないかと嬉しく思っています。
当店は私を含め、美容師としての経験を持つスタッフも多いので、ヘアメイクとセットでご提案できるのも強みの1つですね。ご要望があれば、試着の時点から新日本髪を結って差し上げることもあります。
「白無垢は真っ白」が定着したのは戦後
ー最近は白無垢に赤や緑など、他の色を取り入れるコーディネートもよく見かけます。ご両親や年配世代の方は「白無垢は真っ白」といった考えの方も多く、“邪道”などと映ったりはしないのでしょうか?
加藤 実は、白無垢で白一色のコーディネートが定番化したのは、戦後くらいのことで、江戸時代まで遡ると、白無垢の中には色柄の入った普通の着物を着ていたようです。当店には、付き添いでお母様やご祖母様がいらっしゃることもあり「真っ白でなくていいんですか?」といったご質問を受けることもありますが、伝統を壊すようなコーディネートではないとお伝えしています。
当店では、和装をおしゃれに楽しんでいただくために、ベール付きの髪飾りなどモダンなアイテムとのコーディネートもご提案していますが、伝統文化や職人の方々の思いを冒涜するようなことは避けたいと考えています。素敵なコーディネートをひらめいたとしても、伝統やルールに反していないかどうか、スタッフ全員、歴史などもかなり調べた上でご提案しているので、お母様世代にも自信を持ってご説明できます。
【Case2】スコットランドキルト×色打掛
ーこれまでを振り返って「あれは個性的だった」と思うコーディネートはありますか?
加藤 金・緑・赤で丸紋が豪華に施された手機(てばた)の打掛に赤の掛下を選んだのは、私にとってチャレンジングなコーディネートでした。
新郎様がスコットランド人と日本人のハーフで、お父様がお祝いに仕立ててくださる民族衣装「キルト」を着て写真を撮りたいというご要望でした。新郎様のご両親も、お母様が和装、お父様がキルトで撮影された結婚写真があって、ご両親と同じシチュエーションで撮りたいという素敵なエピソードもありました。
打掛はキルトの黄・緑・赤のチェック柄に合わせて同系色のものを選びました。この打掛はそれ自体が華やかで個性的な雰囲気だったので、普段は、掛下は白や淡い色を選ぶのですが、ご新婦様の顔立ちがはっきりしていたこと、程よく日焼けして健康的な肌色だったことから、あえて赤を選びました。
小物や草履は黒をチョイス。すると、新婦様の華やかな雰囲気が一層引き立ち、凛とした印象に仕上がりました。新郎様の衣裳はまだ仕上がっていませんでしたが、黒は必ず入っていると考え、お2人をリンクさせる色にもなると思っていました。
「できれば黒は入れたくない」というお客様の声もありましたが、提案した5、6案の、いずれにも黒の小物を取り入れ「引き締める色が入った方がお客様の凛とした雰囲気が引き立ちます」と説得し続けて、ご納得いただけました。
お2人とも海外にお住まいだったため、全てメールでのやり取りでしたが何度も調整し、ご満足いただけるコーディネートで撮影当日を迎えていただけました。
【Case3】白無垢+成人式の晴れ着
ー両親や祖父母に買ってもらった成人式の晴れ着を、結婚式でも着たいという要望もありますよね。
加藤 私はご提案の前に「なぜ結婚式を挙げようと思ったのですか?」と尋ねることが多いのですが、「親孝行したい」「母や祖母に晴れ姿を見てほしい」といった答えは多く聞かれます。そこで「成人式の着物は祖母が買ってくれた」といった話が出てくることもあるので、そんな時は「その振袖を色打掛の中に着ましょう」などとご提案しています。
こうしたご提案をしたところ、前撮りでご祖母様が買ってくださった晴れ着を白無垢の掛下としてコーディネートしたお客様もいらっしゃいます。晴れ着は、柄が多く入っていて胸元の黒がポイントとして目立つ、華やかな着物だったので、胸元の小物は主張しすぎない金と白でまとめて、差し色として赤の帯揚げと草履を選んでバランスを取りました。
このお客様のご祖母様も大変喜んでくださったのですが、総じて、和装はご家族の方に喜んでいただけると思います。お母様やご祖母様が試着に付き添われるケースも多いです。過去には、和装を選んだ理由について「姉が結婚した時、母が和装の試着に付き添ったことを、結婚式当日よりも「嬉しかった」と記憶していたので、私も同じようにしたくて」とおっしゃったお客様もいらっしゃいましたね。
白無垢は「どれも同じ」じゃない!
ーCUCURUで取り揃えている着物の特徴を教えてください。
加藤 当店は、生地をつくる機織り職人、刺繍や箔押しの職人、下絵もなしで柄を描ける絵師など、様々な職人の方と直接やり取りしており、オリジナルの着物も多く取り揃えています。白生地から「この色に染めてください」とお願いして、失敗したら染めなおしたり、コーディネーターが職人さんと何度もやり取りしながらつくりあげています。当然、化学繊維などは一切使用せず、全て正絹です。
白無垢だけでも約100着、色打掛は200着以上を取り揃えています。
よく「式場の提携店で「白無垢はどれも同じ」と言われたので、何でもいい」とおっしゃるお客様もいますが、実は、シルエットもデザインも全く違うんです。
たとえば、体型をスマートに見せたい方には、ハリ感の出る織りの生地よりも、染めの生地など体に沿う柔らかい素材がおススメです。写真映りを意識する場合は、全体的に薄い柄が入っているよりも、立体的な刺繍や金糸銀糸を使った柄がポイントで入っていて“抜け感”がある方が、陰影がくっきりして柄も際立つので、キレイに残せると思います。