科学的にも証明されるシンプルな美しさ
エマリーエの象徴とも言える、肩から二の腕を上品に演出する「ケープカラー」のウェディングドレス。ロイヤルウェディングを思わせるような高貴な花嫁になりたい方におすすめです。エマリーエのドレスが花嫁の上品さや気高さ、清楚さを際立たせるのは、デザイン性だけではありません。科学的な視点から計算し尽くされたデザイン、1人1人の体型に合わせた緻密な設計など、デザイナーのエマ 理永(リエ)さんにインタビューしてみました。
斜めのラインが気高く高貴な印象に
-エマリーエのドレスは「ケープカラー」に代表されるように、露出が少なく上品なイメージのデザインが多いです。そうしたイメージを際立たせているのはどのようなポイントでしょうか?
エマ 厳粛で気高い印象を与える斜めのラインを取り入れることが多いというのもポイントの1つだと思います。斜めのラインは私のデザインの1つ特徴とも言え、私が手がけるドレスにはどこかしらに入っているように思います。「ケープカラー」も斜めのラインですね。胸のラインは開きすぎず、二の腕も程よく隠すような、露出の少ないデザインが得意です。
ウエストラインの美しさもこだわりポイントの1つ。キュッとしまったウエストからスカートがふわっと広がるようなラインを意識しています。こうしたラインは、着る人をプリンセスのように気高い気持ちにしてくれると思っています。
エマリーエが描く花嫁像は、純粋で清らか、少女のおもかげが残る可憐な印象を与えながら、芯は強い女性。実際、その通りのお客様が多いと感じています。ラグジュアリーホテルや伝統のあるクラシックな会場を選ばれるお客様が多い印象があります。
「黄金バランス」は1人1人違う
ーエマリーエでは、レンタル・プレタポルテ・オートクチュールと、3タイプから選べます。中でもオートクチュールは、女性の体の美しさを知り尽くしているエマさんの技術が凝縮されていると言えるのではないでしょうか。
エマ オートクチュールの場合、花嫁さん自身の目で、ドレスが自分の体にぴったり沿っていく様子を見ていただくので、全てのバランスが完璧に揃った瞬間、花嫁さんの顔がキラっと輝くのが分かります。付き添いでいらっしゃるお母さまなどにも「見違えた!」と言っていただけることが多いですね。
私が手掛けるオートクチュールは、まず、サンプルドレスを元に綿密に採寸し、パターンを引き直して「プロトタイプ(仮縫い)ドレス」を用意します。そのプロトタイプを試着していただき、姿見の前でピンを打ち直しながらサイズやフィット感だけでなく、全体のバランスも調整していきます。たとえば、首の長いお客様であれば、胸から全体的に引き上げますが、そうするとリボンの位置や大きさ、ウエストの切り替えライン、ケープカラーの位置や角度などもバランスが変わってくるので、黄金バランスを探っていきます。その上で、再度パターンを引き直して1人1人にぴったりなドレスを仕上げます。
その人のためだけに仕立てるオートクチュールドレスは、もはやサンプルドレスとは全く別物というぐらい大きく変わります。
「蹴って」歩かなくても美しい絶妙なスカート丈
プレタポルテは5号・7号・9号・11号・13号の中からその人の体型に近いものを選んで調整していくスタイル、レンタルは一般的なドレスショップと同じです。
レンタルでも、できる限りその人にぴったり美しく着ていただきたいと思うので、結婚式当日まで最終調整には力を入れています。
たとえば、会場の床が絨毯なのか、大理石なのかによってもベストなスカート丈は違うので、可能ならば会場を下見した上で最終調整しています。高級絨毯が敷かれている会場なら、3㎝ぐらい沈むので、中のチュールも含めて丈上げしたり、滑りやすい大理石の場合はトレーンがスカートに引きずられるので、後ろにチュールを足したりといった調整も行っています。丈上げして、全体バランスが崩れた場合は、一旦ケープなども外して整えることもあります。
よく、ドレスを着て美しく歩くコツとして「蹴るようにして」といったアドバイスも耳にしますが、エマリーエのドレスはその必要はありません。
歩く姿を美しく見せるには、スカートの丈を床から4㎝程度上げるのがベストだと思っています。そうすると蹴り上げるような無理な歩き方ではなく、プリンセスのように上品に「スーっ」と歩くことができるんです。
ドレス作りに数学理論を応用
ーエマさんのデザインには科学的な視点も多く盛り込まれているとのことです。どんな点でしょうか?
エマ 「サイエンスマインド」は、ドレスのデザインと設計、両面に取り入れています。デザイン面は、自然界をお手本にすることが多いですね。
たとえば、花のモチーフをふんだんにあしらったドレスがあります。後から分かったことですが、らせん状に並べた花弁の並び方が「フィボナッチ数列」に基づいているというのです。自然界にはこうした数学理論で現わせるものが多く、たとえばオウムガイなどの渦巻も「対数らせん」という数学の概念に当てはまると言われています。
私のデザインはリボンや花のモチーフなど、多くの装飾を施しているドレスも多いのですが、男性が「デコラティブ」と見るのに対し、花嫁さんは「シンプル」とおっしゃる方も多いんです。このことを私はずっと疑問に思っていて、ある脳科学者にお会いした時に尋ねてみたら、とても納得する答えをいただけた、それは私にとって大きな転機の1つでしたね。
「見た目の形が複雑でも、それが自然界にも存在し再生可能なものであると判断できる時、脳は安心感を覚える。女性はそれを直感的に認識して「シンプル」という表現になるのではないか」
これが脳科学者の方の答えです。
それ以降、どんどん科学的な思考を元にデザインするようになりました。科学分野の先生とのコラボレーションドレスなども手がけたことがあります。煙をテーマにしたドレスを作ることになり、まだ数理化の進んでいない煙や波をどう表現するかが課題でした。煙のようなラインは、布をランダムに切っているだけでは全く出てこない、そこで思いついたのが「対数らせん」の概念でした。応用してみたら見事に表現することができたんです。
こうした理論をフル活用して、花嫁の美しさを引き出すというのが、私の使命だと思うようになりました。
科学者とのコラボで煙をテーマにしたドレスも
「見た目の形が複雑でも、それが自然界にも存在し再生可能なものであると判断できる時、脳は安心感を覚える。女性はそれを直感的に認識して「シンプル」という表現になるのではないか」
これが脳科学者の方の答えです。
それ以降、どんどん科学的な思考を元にデザインするようになりました。科学分野の先生とのコラボレーションドレスなども手がけたことがあります。煙をテーマにしたドレスを作ることになり、まだ数理化の進んでいない煙や波をどう表現するかが課題でした。煙のようなラインは、布をランダムに切っているだけでは全く出てこない、そこで思いついたのが「対数らせん」の概念でした。応用してみたら見事に表現することができたんです。
こうした理論をフル活用して、花嫁の美しさを引き出すというのが、私の使命だと思うようになりました。
女性の曲線美を強調するパターンの秘密
ードレスの設計面で科学的な視点が取り入れられているというのは、どんな点でしょうか?
エマ 一般的なドレスのパターン(型紙)は、人の体を縦に6~7等分して作られることが多いのですが、私は11等分してパターンを作ります。
人の体には凹凸があって、絶妙な曲線のバランスこそが女性の美しさと言っても過言ではありません。型紙も6、7等分より11等分と細かく分ける方が、体の凹凸に対する隙間ができにくく、女性の体をより立体的に表現できます。特に、ウエスト周りは固い素材を使うことが多いので、より細かく分けてパターンを作ることでキュッと締まったラインも強調されるんです。実際に袖を通していただくと、花嫁さんの表情から自らの体の美しさを実感していただけていると感じます。
時々、ドレスにしわが寄っていたり、だぶついていたりする花嫁さんを見かけることもありますが、私はなぜそうなっているのか、見れば原因が分かってしまうんです。(笑)
たとえば、インポートドレスで胸が浮いてしまう原因は、実は背中の設計が原因だったりします。欧米人は肩甲骨がしっかりしている方が多いのに対し、日本人は華奢です。そのため背中の布が余って、胸の方に倒れてきてしまうんです。
「胸幅」も上半身を美しく見せる重要なポイントの1つ。「胸幅」は、右腕の付け根から左腕の付け根までの長さで、一般的な日本人女性は30~31㎝程度ですが、人によって33~34㎝程度の方もいらっしゃいます。すると、ドレスが体に食い込んでしまって、痩せていても「はみ肉」したりします。こうした問題は角度を調整するなど、サイズを変えなくても解消することができるんです。
科学の世界に花嫁を美しくする「何か」がある
ーエマさんが「サイエンスマインド」に目覚めたきっかけは?
エマ 私は元々、彫刻家を目指し美術学校で学び、シカゴへ留学しました。そこでアートの夏期講習に参加したことがきっかけで、ファッションの世界に入ったんです。
シカゴでは洋服をデザインする際、ジャケットなどアパレル用のボディとは別に、ストラップレスのドレス用のボディがありました。大前提として、ドレスは一般的なアパレルと違って、凹凸の多い人の体にぴったりフィットするように作るべきという認識があったんです。
でも、日本に帰国してみたら「9号用」など人の体をモデル化したボディはあってもドレス用のボディはない、ドレス作りのメソッドを見失ってしまい、たどり着いたのが「科学」でした。
感銘を受けたのは、書店で出会った「超空間/著:ミチオカク」という1冊の本です。「物理学や科学は、なんてクリエイティブなんだ」と感激したことを覚えています。美術学校やアートの世界では「感性こそ全て」といった雰囲気がありましたが、サイエンスの世界も驚くほどにクリエイティブで、「ここに、花嫁さん達をもっときれいにして差し上げる“何か”がある」と確信し、それこそが私の進む道だという使命感にも駆られました。
それから、物理学者や数学者、脳科学者などにも積極的に会うようにしてきました。大学のゼミなどにお招きいただいて、数学者や物理学者の皆さんと議論する機会もいただいています。そうしたご縁から、数学者やサイエンティストなどとのコラボレーションドレスなども手がけるようになり、総合科学雑誌「ネイチャー」に取り上げていただいたこともあります。
私は花や樹木、海岸線や惑星など自然界からデザインのインスピレーションを得ることが多いのですが、人はこうした自然界のものを本能的に「美しい」と感じたり、共感したりするのではないかと思うんです。人間も元々自然界の一部だからです。
江戸時代の人々や原始人の人々も、草花や星空を美しいと感じたのだろうかなど、時空を超えて思いを馳せながら、デザインのインスピレーションを得ています。
エマ理永
エマ理永
(プロフィール)
愛知県生まれ、武蔵野美術短期大学工芸デザイン科卒業。
アメリカシカゴ近郊のウィリアム・レイニー・ハーパー・カレッジのファッションデザイン科にて学ぶ。
1988年ブランド「エリマツイ」を立ち上げる
1999年より物理学者、数学者、工学士、芸術家とともに「ISACの会」結成。武蔵野美術大学で研究を始める。東京コレクションに参加するとともに、 アート展に作家として出品、サイエンティスト、数学者、アーティストとのコラボレーションを続ける。
2005年〜2007年 宇宙ウェア開発ユニット(JAXA宇宙航空研究開発機構
宇宙オープンラボ 宇宙ビジネス提案 選定ユニット)ユニットリーダー。
2013年 株式会社エムクリエーション設立 ブランド「エマリーエ」を立ち上げる
「エリマツイ」ブランドから担当を離れる
2017年 デザイナー名をエリ松居からエマ理永に改名
2019年 理化学研究所と東大と共同で「AI」とコラボレーションにより東京コレクションでAIファッションを発表