人柄や素質で司会者を4つにカテゴライズ
パーティーの進行役を務めるのが、結婚式の司会者ですが、実は、その場をどんな雰囲気にするのか、大きな鍵を握る存在なのです。ここでは「フォーマル」「アットホーム」など大きく4つのスタイルに分類。要望に応じて全てのスタイルを使いこなせるのが、プロの司会者ですが、人柄や天性の素質によって、より得意なスタイルがあるので、各司会者の得意分野に応じて4つにカテゴライズしました。司会者探しの参考にしてみてください。
アナウンサーのように、聞き心地の良い語り口調で、よどみなくつつがなくパーティーを進行していくスタイル。ゲストとは一定の距離を保ち、パーティーに干渉しすぎず、あくまで「司会進行役」という第三者の立場を貫きます。特に、ホテルウェディングや歴史ある建物など、格式の高い式場にマッチする司会スタイルです。
極力多くのゲストが共感できるパーティーへ導く -菅原貴子さん-
菅原貴子さんは、2人がパーティーでやりたいことがゲスト満足にもつながるかどうかを客観的に見極め、できるだけ多くのゲストが共感できるパーティーにすることも、司会者の重要な役割だと言います。
特に、サプライズイベントは要注意。たとえば、友人ゲストなどに予告なしでスピーチをお願いするようなサプライズは、対応してもらえても「もっと相応しいエピソードがあったのに、思うようにコメントできなかった」と後悔してしているゲストが圧倒的だと言います。そのため、こうしたサプライズの計画を聞くと、「思い出話を披露してもらうかもしれない」といった程度は知らせて、心の準備をしておいてもらうようアドバイスしています。
最近は、列席できない友人達のメッセージをまとめた、サプライズ動画のプレゼントも増えていますが、新郎側と新婦側で用意しているのが同じような動画だったり、編集ソフトやBGMも偶然同じで、知らないゲストから見れば見分けが付かないといった問題も起こりかねません。すでに余興やスピーチなどイベントが盛りだくさんで、上映のための時間が足りないということもあります。そのため、事前にウェディングプランナーなどに動画を確認してもらったり、打ち合わせしながら進めた方が良かったりします。
見れば分かることはコメントしない
司会のコメントはシンプルを意識。たとえば、ケーキ入刀のシーンも、今から2人がケーキにナイフを入れること、自由に写真を撮れること、準備が整ったことなどを端的に伝えたら、準備に手間取ったりしない限り、ケーキのデザインや2人の馴れ初めなどを無理に語らないようにしています。新郎新婦がケーキの前に立つ様子から何が始まるのかは一目瞭然だし、2人が選んだ音楽のボリュームが上がれば自ずと盛り上がる、そこに長いコメントは不要だからです。
「ゲストは年齢も性別もバラバラという中、できる限り、多くの方が共感できる空気を作ることが重要です。その視点は、余興やサプライズ、司会者のコメント、全てに必要だと思います。見れば分かるようなことを話すと、中には「くどい」と感じるゲストもいらっしゃるので、そうしたリスクを回避するためにもシンプルなコメントを意識しています」(菅原さん)
話し言葉に近い、親近感のある語り口調で、ゲストにもパーティーの「一員」という感覚を与えるようなスタイル。ゲストハウスウェディングのように解放感のある式場におススメです。解放感があるとはいえ、会社の上司や親族など、一定の礼儀を守りたいゲストが参列していることも多いので、敬語は崩さないなど一定のルールを守りながら、羽目を外しすぎずに盛り上げます。
「半歩先」でゲストのテンションをリード -大塚直さん-
大塚さんが結婚式の司会をする上で最も大事にしていることは、次のシーンに向けてゲストの心の準備を整えることです。結婚式は、友人の余興で大笑いしたかと思えば、すぐ後に、花嫁の手紙で一気に感動的なムードに包まれるなど、2時間半の中で目まぐるしく場面展開していきます。そこで司会者が絶妙なコメントをすると、それぞれのシーンに相応しい空気が生まれるきっかけとなり、ゲストの一体感も生まれやすくなると言います。
そのために、次のシーンのムードに合わせて、声のトーン、話すスピード、間合いなどを工夫し、「半歩先」を意識しながら、ゲストのテンションをリードしていきます。
当然、話す内容も関係します。そのため、打ち合わせで、パーティー進行を細かく確認し、要所要所で登場するキーマンとの関係性やその人にお願いした理由などもヒアリングし、コメントのヒントにしています。
たとえば、中座のエスコート役。幼い頃からおばあちゃん子だったので、祖母にお願いするという場合、しっとりしたムードに持っていきたいため、打ち合わせでは祖母との思い出などもヒアリングして、コメントに盛り込んだりします。また、「先に結婚する」と言っていた新郎親友が登場する場合、『〇〇さんの方が先に結婚すると宣言していたそうですが・・・先を越されちゃいましたねぇ。でも今日、幸せをお裾分けしてもらったので次は〇〇さんの番ですね!』などと、軽いノリでコメントします。
一体感を生み出し記憶に残る1日を演出
場面展開のきっかけを作る際に、選ぶ言葉や口調は、ゲストのムードによって微妙に変えています。1組1組に合ったテンションを掴むために、パーティー開始までの待ち時間をどう過ごしているかなど、ゲストを観察して雰囲気を把握するのも工夫の1つ。たとえば、自由に席を立って、あちこちで写真を撮っていれば「賑やかな雰囲気なのかな」とか、それぞれ自分の席に着いて周りの人と小声で会話していれば「落ち着いた方が多いのかな」といった具合。その上で、ハイテンション過ぎて白けないよう、かといって大人しすぎないよう、絶妙なバランスを意識しています。
「結婚式は、普通の飲み会とは全く違います。記憶に残るような特別な1日にする必要があり、そのために不可欠なのが一体感です。司会者にとって最も重要な役割は、一体感が生まれやすい空気を作ることだと思っています」(大塚さん)
「つなぎ」でパーティーの雰囲気を整える -竹本志帆さん-
結婚式には、ケーキ入刀や新婦の手紙朗読といった「イベント」があり、その準備にかかる数十秒~1、2分を「つなぐ」というのも司会者の役割。竹本志帆さんは「イベントの前後に生じる“隙間”の時間を、どうつないだかでパーティーの雰囲気はガラッと変わります」と言います。
たとえば来賓祝辞は、新郎側と新婦側、2人連続で行われることがほとんど。もし、先に登場した新郎側の来賓が話し上手で、会場が爆笑の渦に包まれた場合、次に話す新婦側の来賓に、どうつなぐかも司会者の腕の見せどころです。
淡々と「それでは新婦ご上司の・・・」などと続けると、せっかく盛り上がった空気も一気に冷めてしまいがち。でも次に話す新婦側の来賓は、緊張やプレッシャーを感じていることも予想されるため、新郎側の来賓が作ってくれた和やかな空気も活かしながら次の来賓が話しやすいように場をつなぐテクニックが求められます。竹本さんなら、まず自分自身もその場の空気を楽しみながら「新郎ご上司のお人柄がにじみ出る、温かなエールをありがとうございました!」、その後、少しトーンダウンさせて「それでは・・・」と、ゲストが自然と次のスピーチに耳を傾けたくなるよう、場の空気を緩やかに戻していくコメントを心がけると言います。
少人数婚は家族・親族に溶け込む努力も
30名以下の少人数ウェディングを担当する時は、ゲストの間にスムーズに溶け込めるよう、迎賓の時から会場入口に立ち、マイクを持たずに「お待ちしておりました、どうぞ」などと、会場内へ案内することもあります。少人数婚の場合、家族・親族の中に溶け込めていないと、もし、パーティーがなかなか盛り上がらず、会話を促そうとしても難しかったりします。そのため、あらゆる機会を窺って良い空気を作る工夫をしているのです。
「盛り上がっていれば、あえて退出することもあります。少人数の場合「身内以外の人がいると話しにくいな・・・」という意識が働くこともあるので、そういうムードを察知したら、「それではご歓談をお楽しみください」などと、さりげなく席を外すんです。司会者の仕事は、マイクを持って話すというよりも、場の雰囲気を整えることだと思っています」(竹本さん)
たとえば、ラジオのパーソナリティのようなノリの良い語り口調など、2の「ナチュラル&アットホーム」を、よりフレンドリーにしたスタイル。ゲストに呼びかけたり、一部のゲストを「いじって」、笑いを起こしたりするようなシーンも作ります。1.5次会など友人中心のパーティーや、親族と言っても、かしこまった雰囲気より楽しみたい人が多い、上司とは言っても年齢がさほど変わらず普段から飲みに行く機会も多いといった顔ぶれのパーティーにおススメです。
プロフィール紹介はエンターテイメント -河合隆司さん-
新郎新婦のプロフィール紹介は余興にも相当する立派なエンターテイメントです。さらっと手短に淡々と済ませるのはもったいないと思います」
こう語るのは、これまで2000組のウェディングMCを経験してきた、河合隆司さん。
プロフィール紹介は、新郎新婦入場→ウェルカムスピーチの後など、パーティーの序盤に入るのが一般的。そこで、会場に笑いが沸き起こるようなプロフィール紹介ができると、時間にして3~5分と短いながらも一気に空気が和み、パーティーのプロローグを飾るエンターテイメントになるのだと言います。
一般的には、2人が提出する「プロフィールシート」を元に、「新婦のAさんは〇〇だそうです」「新郎のBさんには〇〇と伺っております」など、第三者の語り口調が大半ですが、河合さんのおススメは一人称で語るスタイル。伝聞形態よりも新郎新婦の言葉を代読するスタイルの方が、ゲストの耳にストレートに届くためです。
この場合、「生年月日」「学歴」「趣味」「馴れ初め」などの箇条書きスタイルのプロフィールシートではなく、作文形式でまとめてもらうようにしています。過去に担当した新郎新婦のプロフィールの中から、参考になりそうなものを3つほどサンプルとして紹介しています。
プロフィール文のポイントは具体的なエピソード
作文形式のプロフィール文で最も重要なのは具体的なエピソード。たとえば、「彼女の第一印象はカワイイ」ではなく、いつ・どこで・どういう部分を・なぜ「カワイイ」と思ったのか、それがゲストに2人の人柄や関係性を印象付ける重要なポイントになると言います。
「笑いが起こるようなプロフィール紹介ができると、後々、親御様にも「おもしろく紹介していただいて」と笑顔で感謝されたりします。もちろん「一般的にさらっと」とリクエストいただいたら対応しますが、私の担当するお客様は7、8割方、私のおススメを選んでくださいますね」(河合さん)
司会全般においては、場を和ませられるようなウィットとユーモアを意識しています。たとえば、スピーチを頼む上司、中座のエスコート役の母や兄弟姉妹などについても情報提供を求め、「ネタになりそう」という情報は、パーティーの“潤滑油”として役立てています。
友達のような距離感でストレートにアドバイス -水島恵美さん-
水島恵美さんは、司会者打ち合わせの際、新郎新婦の友達のような距離感で、ストレートに意見を伝えたり、アドバイスをしたりしています。新郎新婦は結婚式については初心者。ゲストがどう思うかまで想像が及ばない部分もあるので、プロとして導きます。
水島さんが打ち合わせで大切にしていることの1つが、結婚式当日の進行を1つ1つ、明確にイメージしてもらうこと。約1時間半かけて披露宴の進行をシミュレーションします。中には、初めて結婚式当日をリアルにイメージできて、涙を流す新婦もいるそうです。
たとえば、ケーキ入刀。「ケーキはこの辺りに用意されているので、司会者からの合図で、お2人はここを歩いてこの位置に立ちます。その間にゲストの皆様に前の方に集まっていただきます」などと絵を描きながら細かく説明し、時に司会者コメントを入れながら、結婚式当日を具体的にイメージしてもらいます。イメージが具体的になると「キャンドルリレーとビールサーブ、どちらもゲストテーブルを回る演出だから、どちらか1つでいいかな」や「ゲストインタビューを求め過ぎかな」などと、パーティー進行を客観的に見直せるようになったりします。時には、水島さんの側から「この演出、ゲストの立場になると、少し長く感じてしまうのではないでしょうか」などと率直にアドバイスしています。
当日の明確なイメージが打ち合わせのゴール
「当日の進行1つ1つには必ず意味があります。その意味をきちんと理解しているどうかで、価値が大きく変わると思うので、打ち合わせでは「当日をイメージできた」とおっしゃっていただけるまで、ご説明し続けます」(水島さん)
結婚式当日は、ウェルカムドリンク中の過ごし方などを観察して、ゲストの雰囲気に合わせた司会スタイルを意識しています。水島さんが新郎新婦世代よりも少し上の年代に入ってきたため、友人中心の賑やかなパーティーなどでは、「今から〇〇が始まるから、座ってくださーい」など、学校の先生やお姉さんのような感覚で呼びかけるスタイルも違和感なくできるようになってきたと言います。
「おネエ系」、マジシャン、片言の日本語で笑いを誘う外国人、歌手、など、一芸やその人自身のキャラクターを生かした個性的な司会スタイル。喋りもさることながら、芸人のようなインパクトのある存在感で盛り上げてくれます。緊張してしまいがちな、少人数ウェディングにもおススメ。なんとなくクスっと笑ってしまうような司会者の存在に、自然と緊張もほぐれ、和やかなムードを作ってくれます。