■ 緊急事態宣言で結婚式延期を決断…直後は食事もできないほどに
小林さん夫妻が結婚式を決めたのは、結婚式の約1年前のこと。ところがその後、コロナ禍が深刻化し、4月には東京や大阪などの大都市で緊急事態宣言が発令されて結婚式を延期する人も現れはじめました。在住地域で最初の感染者が報告されたことを受け、家族からも「結婚式を挙げても大丈夫なの?」と心配する連絡がくるように。ふたりは医療従事者。もし結婚式で感染が発覚したりクラスターが発生したりしたら、勤め先にも迷惑をかけてしまいます。
妊娠や出産といったライフプランを考えれば、延期せずに決行する選択肢もありましたが、80名前後のゲストを親族のみに縮小しなければならない、親族婚にしたところで全員集まることができるとも限らない、せっかくなら同僚や友達にも祝福してほしい、といった葛藤のなか、両親やゲストのことを考えるとこの緊急事態宣言下で結婚式を挙げるべきではないと、式の延期を決断します。
それでも花嫁は、決断が正しかったのか思い悩み、しばらくは食事が喉を通らなくなったり、ふとした時に涙が出てきたりと、体調を崩してしまったそうです。
その後、孫の顔が楽しみだと言っていた両親が「延期してもいいじゃないか」と言ってくれたことで心が楽になり、「せっかく結婚式まで余裕ができたのだから、今しかできないふたりだけの時間を満喫しよう」と前向きに考えることができるようになったそうです。
■ セルフフォトは手軽な思い出づくり
結婚式を延期する代わりに、小林さん夫妻はフォトウェディングを楽しむことにしました。
ふたりは合計3回のフォトウェディングを行いました。何度も楽しんだことで、沈みがちだった気持ちも、徐々に明るく前向きになっていきました。
一度はプロカメラマンに頼みましたが、残り2回を職場の後輩に撮影を頼んで「セルフフォト」とすることで、予算を抑えながらセルフコーディネートする楽しさも味わえました。
かかった費用は3回合計で約31万円。特に、低予算で叶うセルフフォトは手軽に思い出づくりできるよい機会だと感じたそうです。
■ ボヘミアン×ワイルドな岩場でスタイリッシュフォト
最初の撮影は、元々予定していた「前撮り」をカメラマンとヘアメイクさんの女性2人で経営するスタジオに依頼。「生まれ育った長野にはない海で撮りたい」と希望したところ、ふたりの雰囲気にぴったりなロケ地として、神奈川県のとある海岸にある岩場を提案してくれました。
花嫁コーディネートはボヘミアンな雰囲気を意識。ドレスは撮影を依頼したショップでレンタル、胸元の大胆なVカットが印象的なシンプルですっきりとしたシルエットのインポート風デザインを選びました。ブーケはドレスの雰囲気に合わせたオーダーメイド。結婚式本番のテーマカラーであるパープルとグリーンを中心につくってもらいました。
このボヘミアンスタイルは、「大自然」という言葉が似合う岩場のロケ地と相性抜群。ナチュラル且つ、スタイリッシュな写真に大満足したそうです。
かかった費用は、撮影料・レンタル衣装・ヘアメイクなどフルパッケージで23万円前後でした。
■ 自然体×真夏の草原で飾らないふたり
2回目は、地元である長野でのロケ撮影。美しい大自然の山々で知られる長野県ですが、なかでもいちばん好きな真夏の緑を背景に選びました。
テーマは「ありのままのふたり」。衣装は、アパレルブランドのビンテージ風ロングワンピース購入し、普段づかいのアクセサリーや麦わら帽子を合わせて、かわいくナチュラルにコーディネートしました。ブーケは大振りなオレンジのダリアを一輪。ブーケを頼めるフラワーショップが近くにないという事情をカバーし予算も抑えながら、真夏の元気な風景にアクセントを添えています。
撮影をお願いしたのは普段から夫婦ともに親しく付き合いのあるカメラ好きの後輩。リラックスし、ふざけあったり笑いあったりと、プロのカメラマンが撮った「かっこいい写真」とはまたひと味違う、飾らないふたりの様子を残すことができたそうです。
費用は、ドレスが2万5,000円、アクセサリーや靴、花などで8,000円前後で合計3万3,000円程度。撮影してくれた後輩には撮影のお礼として、5,000円程度で特別感のある日用品を贈りました。親しい間柄なので現金ではなく、受け取りやすい日用品にしました。
■ ドレス&ニット×冬景色のリラックススタイル
3回目は、結婚式当日は着ないカラードレスでの撮影。インスタなどで憧れていた、ドレス&ニットカーディガンというコーディネートに挑戦しました。落ち着いたブラウンカラーのドレスは、3万7,000円。プチプラドレスのバリエーションが豊富なショップで購入しました。
撮影は4月でしたがまだ肌寒く、空も少し冬らしさが残っていたので、落ち着いた色みのドレスとニットという花嫁コーディネートがぴったりマッチ。
この時の撮影も、2回目と同じ職場の後輩に依頼。お礼も2回目と同様、5,000円程度で喜んでもらえそうなギフトを贈りました。
■ 結婚式の打合せに積極的に臨むように
「ロケーションやスタイリングなど、コーディネートを考えるのも楽しかったです。もっといろいろなスタイリングにチャレンジして撮影したいと思うようになったのでロケーションに合わせて衣装も購入しましたが、予算重視なら1着でも十分楽しめます。結婚したら、夫婦揃ってドレスアップして写真を撮る機会も少なくなると思うので、こんなにたくさん撮影を楽しめてよかったです!」と小林さんご夫婦。
撮影後は、延期していた結婚式本番に向けた、準備を再開しましたが、実は延期前の打ち合わせはすでに数回、経験済み。もともと、小林さんの担当プランナーは、どんどん提案してくれるタイプではないと感じていましたが、再スタートしたら、小林さんの側から積極的に相談してみようと思っているそうです。
そう思うようになったきっかけは、延期前の打ち合わせで、自分たちでは気づかなかったアイデアを出してもらえたこと。
小林さん夫婦は、『ワインボックスセレモニー』という演出を行うタイミングで意見が合わず悩んでいました。それは、ゲストの前で木箱にワインボトルとお互いへのラブレターを入れて鍵をかけ、5年後、10年後にタイムカプセルのように開けて楽しむというもの。朱美さんは人前式で行いたいと思いましたが、彼はゲストの前ではなく、ふたりだけのセレモニーとして楽しみたいと言います。
プランナーさんに相談してみると、「木箱に、ゲストからのメッセージも入れてみては?それなら結婚式当日にやる意味が出てきますよね」とアイデアをもらえました。実施するタイミングは披露宴のスタート時。ゲストにも参加型セレモニーとして楽しんでもらえるのではないかと提案してくれたのです。
「最初から『頼れない』と諦めずに、一度は相談してみるべきだと思いました。会場装花やヘアメイクなど、項目によっては具体的なイメージがある場合もあるので、そういう時は指示書を用意するなど、リクエストはしっかり伝え、逆に、やりたくないこともはっきり意思表示することが大事なんだと思います」(小林さん)
■ アンラッキーも考え方次第でラッキーになる
もともと結婚式を挙げる予定だった日には、ふたりで一泊旅行にも出かけました。共通の趣味であるキャンドルを焚きながら、「ちょうど今頃が指輪交換の時間だね」などと当日のタイムスケジュールを想像しながら、結婚式のシミュレーションをして楽しんだそうです。
彼が「人生の中のたった1年、大したことないよ」と言ってくれたことも、困難をポジティブに受け止められるきっかけになったと言います。
コロナによる結婚式延期は、小林さんにとって「人生はすべて予定通りに進むとは限らない」という教訓になったと言います。
「結婚式や妊娠・出産といったライフイベントは大切なものだから、“こうあるべきだ”という考え方に縛られがちです。結婚式を延期するな順番を逆転させるという選択肢もあります。私たちはフォトウェディングを自分たちでコーディネートしていくなかで、柔軟に考えれば、状況に合ったやり方はいくらでもあるということに気がつきました。人それぞれの価値観でいいと思えるようになったのがいちばんの収穫ですね」(小林さん)