結婚式のテーマを決めて、より印象に残る式を演出する「テーマウェディング」という言葉が聞かれるようになりました。テーマの決め方は人ぞれぞれ。では一体、どのように決めて、どうやって演出すれば良いのでしょうか。
実際にテーマウェディングを成功させた、あるご夫婦に話を聞いてきました。
■ 結婚式のテーマは「ゲストへの手紙」に
共に、幼い頃から体操競技を続けてきた、西田昂平さん・綾香さん夫妻。参列してくれたゲスト40名のうち、半分は体操競技の恩師や仲間たちでした。
こうしたゲストにふたりが伝えたかったのは、「ゲストの皆さんのおかげで私たちはここまで成長できました」というメッセージ。
そこでふたりが決めたテーマは、
「お世話になった皆さんへ——」。
集まってくれるゲストへの手紙の書き出しになぞらえたものにしました。
「このテーマが浮かび上がったときに、結婚式のイメージが少しはっきりした気がしました。テーマが決まる前から、ゲストの顔ぶれを考えながらどんなパーティスタイルがぴったりなのか、ぼんやりとイメージしていましたが、テーマができてよりイメージが具体的になったという感覚です」(昂平さん)
■ ゲストへの感謝の気持ちを「ウォールレター」で表現
このテーマをいちばん象徴する演出が「ウォールレター」。文字通り、壁を手紙で飾り付けるというものです。
西田夫妻の場合は、挙式後、ゲストが披露宴会場に向かうまでの階段や踊り場に、ふたりから全員に宛てた手紙と思い出の写真を飾りつけました。ゲストには、それぞれ自分宛ての手紙や写真を探して、パーティが始まるまでのあいだに読んでもらいます。
写真に写っているのは、ふたりが幼稚園の頃から学生時代、現在に至るまで、それぞれのゲストと共に過ごした日々。そこに「こんなこともあったね」「こんな風にお世話になりました」といったひと言メッセージも加えて、思い出を懐かしんでほしいという思いを込めました。
昂平さんと綾香さんは同じ大学の先輩後輩。学生時代の仲間が共通の知人であるのはもちろん、それぞれ別の体操教室に通っていた頃の恩師や仲間も、実はふたりの知らないところでつながっていた人も多くいました。
そのため、結婚式は思い出話に花を咲かせる同窓会のように和やかに過ごしてほしいと考えていました。ウォールレターはパーティに向けて一気にタイムスリップしてもらうための仕掛けでもあったわけです。
「ふたりでゲストの顔ぶれを想像してみて、『半分、同窓会みたいな雰囲気になりそうだね』という話になりました。パーティの前に懐かしい気持ちになっていただくためにも、とてもよい演出になったのではないかと思っています」(綾香さん)
■ 参列経験ゼロのふたりがテーマウェディングに辿り着いたワケ
結婚式の「テーマ」を決めるというと、参列経験が豊富で、結婚式に対して具体的なイメージを持っている“上級者”のように感じられますが、昂平さんも綾香さんも、結婚式への参列経験もなく、具体的なイメージがないところからスタートしました。
テーマのある結婚式があることを知ったのは、ウェディングプランナーとの最初の打ち合わせ。「結婚式の準備を進めるうえで軸になるものなので、次回の打ち合わせまでに考えてきてください」と言われ、「たしかに必要そうだ」と納得したものの、実際になにから決めれば良いのかもわかりませんでした。
プランナーには「たとえば、ディズニーなどふたりの好きなもの、パーティをどんな雰囲気にしたいかなども、言葉選びのヒントになりますよ」とアドバイスを受けていましたが、どれもしっくりきません。ノーアイデアのまま打ち合わせのテーブルに着きましたが、担当プランナーはふたりにおすすめの結婚式のビジュアルをA4用紙にまとめてきてくれていました。そこには、ウォールレターのアイデアのほか、会場に飾る花のイメージやテーマカラーなども盛り込まれていました。招待するゲスト、理想の過ごし方、ふたりの好きな色やデザインなど、初回の打ち合わせで伝えたことを元に考えてくれたのです。
そこで提案してもらったアイデアを元に、ふたりとウェディングプランナー、3人でディスカッションしながら導き出したのが「お世話になった皆さんへ」というテーマ。ゲストと過ごした日々を振り返りながら和やかに過ごしたいという、ふたりの理想にぴったりのテーマとなりました。
■ ゲストの顔ぶれと理想の過ごし方が“テーマの種”
ウェディングプランナーのサポートがあったとはいえ、ふたりが納得できるテーマを導き出せた理由は、最初にゲストの顔ぶれと理想の過ごし方をイメージできていたから。それこそが“テーマの種”となり、プランナーも的確な提案ができたのではないでしょうか。
この“テーマの種”は結婚式場を選ぶときからふたりのあいだで共有されていました。
見学した式場は2軒。最初に訪れたのは、地元でもよく知られた由緒ある老舗ホテル。施設の佇まいも接客も、すべてに「格式高い」というイメージを受けましたが、とくに気になったのは料理でした。
提供される料理は見た目も味もまさに「正統派フレンチ」という印象。背筋を伸ばして正しいテーブルマナーで食べたくなるような、フォーマルなメニューでした。でも、招待するゲストは親族や学生時代の先輩・後輩、ふたりの子ども時代をよく知る恩師が中心。リラックスして思い出話を楽しんだり、「あの頃」に戻って和やかに過ごしている様子を思い描いていたので、「もう少しリラックスできる雰囲気がいい」と思ったそうです。
ふたりが契約したのは、次に訪れたゲストハウス。決め手は「親しみやすさ」でした。
料理もフレンチではあるものの、出汁が使われているなど、どこかホッとするような馴染みのある味付け。和やかな雰囲気をつくる上で最も重要なのは料理だと思っていたので、お堅くならずに食べられそうな親しみやすいメニューなら、リラックスしてもらえそうだと思いました。
フレンドリーな接客も大きな決め手のひとつ。とくに、見学時の案内から打ち合わせまで、すべてを担当してくれたプランナーは、マスクで目元しか見えなくても、常にニコニコしていることがわかるほど、親しみやすい笑顔を向けてくれました。こんな接客なら、ゲストの緊張も和らぎリラックスして過ごしてもらえると感じました。
ふたりの趣味だけで式場を選んでしまうと、後々、ゲストの顔ぶれをイメージしたときに「ちょっと違うかも」といったズレが生じかねません。どんなゲストを招待して、どのように過ごしてほしいのか。西田夫妻の場合は、それがある程度明確になっていたからこそ、後で決めた結婚式のテーマにもマッチする式場を選ぶことができたのではないでしょうか。
式場見学の時点から、“テーマの種”となるゲストの顔ぶれや理想の過ごし方を思い描くことができていれば、大きくズレることなく結婚式準備を進めることができます。
■ 習い事を続けさせてくれた両親への感謝も伝わる
結婚式当日、恩師や仲間たちが打ち解けて楽しんでいる様子は、幼い頃からふたりに体操を習わせてきた両親に対して「おかげでこんなに素敵な仲間に恵まれました」というメッセージにもなりました。
とくに、綾香さんの母は「この子にとって体操を続けることは辛いことなのでは?」と心配に思うことがありました。綾香さんが通っていたのは全国大会優勝は当たり前、国際試合で世界を相手に勝負するほどハイレベルな教室。そのなかで我が子が年下の子達にも追い抜かされていく様子を見ていたたまれない気持ちになっていたそうです。
でも、体操のおかげで素晴らしい仲間に恵まれ、旦那さんとの縁も体操が取り持ってくれた、綾香さんはクライマックスで読む両親への手紙にも「体操を続けてきてよかったと思っているよ」という言葉を入れました。
その言葉は、ゲストが和気あいあいと過ごす様子によって一層、真実味を増し、両親に「(息子・娘は)素晴らしい人たちに恵まれた」と実感してもらえる、またとない機会になりました。
■ すべての軸は「どんなゲストに・どう過ごしてほしいか」
ウェディングテーマというと、ポエムの一節のようなキラキラワード、テーマカラー、キービジュアルなどを思い浮かべがちですが、「どんなゲストに・どう過ごしてほしいか」をイメージするだけでも十分。
もちろん、ひと言でうまく表現できるテーマワード、そのテーマを象徴するようなビジュアルなどがあれば、よりフォトジェニックな結婚式にもなり、メリットもたくさんあります。
西田夫妻のように、ゲストの顔ぶれを思い浮かべ、「同窓会のように過ごしてほしい」といったイメージを持つことができれば、式場の雰囲気、料理のテイスト、会場の装飾、パーティ演出など、すべてを選ぶうえで軸にすることができます。それだけでも、まさにふたりがウェディングプランナーに言われた「結婚式の準備を進めるうえで軸になる」という役割はきちんと果たしているのです。
言葉にしなくても構わないので、まずは、ゲスト一人ひとりの顔を思い浮かべ、どんな気持ちを持っているか、集まってもらえたらどう過ごしてほしいのか、振り返ったり整理したりするところから、結婚式の準備を始めてみてはいかがでしょうか。