■ ドレス試着で少女に戻る奥ゆかしい“大和なでしこ”
「せっかくの機会なので、お2人の大切な方々に晴れ姿を見ていただきませんか?」
これはウェディングプランナーのikkeiさんが、2人だけの挙式を予定していた新郎新婦に提案したことです。
新郎79歳、新婦68歳、2人とも結婚は2回目という熟年カップル。それぞれ独立した子どももいますが、「いい年してみっともない」などと言われ、結婚式に対してどこか引け目を感じていました。それでも「ウェディングドレスを着てみたい!」という新婦の希望を叶えるために、2人だけの挙式に踏み切ったのです。
挙式のみの場合、一般的には打ち合わせは1回きり、30分~1時間でほぼ全ての準備が整いますが、このカップルはドレス試着だけでも3回、最初の式場見学も2、3時間かけてじっくりイメージを膨らませていきました。
特に、ikkeiさんの印象に残っているのは、新婦の“変身”ぶり。第一印象は、旦那さんの後を一歩下がってついていく、典型的な“大和なでしこ”といった奥ゆかしい印象でしたが、ドレス試着の後は、ガラリと一変します。
「幼い頃、雑誌で見た純白のドレスが忘れられなくて、ずっと憧れていたんです。でも最初の結婚の時は両親の意向で和装だったから、今は楽しみで楽しみで!ドレスショップに行ったら、どれもこれも素敵で選びきれないほどです!」
少女のように目を輝かせながら、言葉がとめどなく溢れ出てきます。そんな様子を優しく微笑みながら見守る新郎。その様子を見たikkeiさんは「こんなにイキイキと輝いているのに、カメラマンにしか見てもらえないなんてもったいない」と思い、冒頭のような提案を投げかけたのです。
■ 反対していた子どもや孫達も列席
すると2回目の打ち合わせに訪れた2人から「10名ほど、友人を招待してみようかしら」とポツリ。社交ダンスで知り合った2人には同じ趣味仲間がいて、お祝いに駆けつけてくれると言うのです。ikkeiさんは「お子さんやお孫さんにも祝福してもらえると、もっと素敵なのに」と思いながら、口にはできませんでした。最初に、結婚式を挙げることを快く思っていないと聞いていたからです。
ところが挙式の1週間前、「ゲストが全部で20名ぐらいになりそうなんですけど、大丈夫でしょうか?」という連絡。結婚式の準備を進めるうちに、どんどん表情が明るくなっていく2人の姿を見て、子どもや孫たちも祝福したい気持ちが募り、会社や学校を休んで列席を決めてくれたそうです。
■ 控室にハネムーンの写真を飾ってくれた新婦の娘
迎えた当日、ゲストの控室には、ハネムーン先で撮影した2人の写真が飾ってありました。新婦の娘がフォトフレームに入れて持ってきてくれたのです。ikkeiさんは「これも2人を祝福する気持ちの現れだと感じた」と振り返ります。
新婦のエスコート役は娘。扉が開き、新婦の幸せそうな笑顔が現れた瞬間、新郎は大号泣してしまいます。新婦の願いを叶えられた喜び、足の不自由な新郎を支える覚悟で結婚を決めてくれたことへの感謝など、様々な感情が一気に溢れ出たようでした。
エスコート役が娘から新郎に変わると、新婦は文字通り、足の悪い新郎を支えるように寄り添い、一歩一歩、幸せを噛みしめるようなゆっくりとした足取りで祭壇へ向かいます。
そんな2人の様子を参列者は温かい笑顔で見守る、愛情に満ちあふれた優しい時間が流れたそうです。
■ いかに愛されているかを実感できる貴重な機会
「よく、自分が主役になれるのは人生で3回と言われます。3回とは、生まれた時、結婚する時、死ぬ時ですが、意識があるのは結婚する時だけ。2人にとって大切な人が心から祝福してくれる、どれだけ周りに愛されてきたかを実感できる、そんな機会を逃すのはとてももったいないことだと思います。だからこそ、私は、写真だけ、2人だけというのではなく、家族や友人など大切な人を招待する結婚式を挙げていただきたいと思っています」(ikkeiさん)
ikkeiさん
大手専門式場に12年間在籍。延べ1300組以上ものお客様を担当し、結婚式のトータルコーディネート経験が豊富です。おススメは、お開き後、ゲストが「2人らしかったね」と言ってくれるような結婚式。