結婚式のヘアメイクは花嫁にとってウエディングドレスと同じぐらい興味関心の高いことですが、クレームの多い領域でもあります。そんな中、セレーノ(東京・港区)は、2017年の開業以来、クレームゼロです。ポイントは「その人らしさ」を引き出すこと。そうすることで、結婚式当日、花嫁が自信を持って過ごせると言います。(セレーノ:代表取締役　優香さん)

ー花嫁1人ひとりに似合うヘアメイクのアイデアを考える上で、必ず押さえているポイントはありますか?
優香　ヘアメイクリハーサルに入る前のカウンセリングで、普段の様子、その人の“素顔”を尋ねるようにしています。たとえば、普段着はパンツスタイルが多いのか、スカートが多いのか、スカートならAラインかタイトスカートか、休みの日にはどんな過ごし方をしているのか、という風に「その人らしさ」のヒントを掴むようにしています。

ヘアメイクで不安感を抱かせてしまう最大の理由は「居心地の悪さ」だと思います。たとえば、普段、パンツスタイルが多い方は、動きやすい格好が好き、フォーマルな服装は苦手といった傾向があります。帽子やヘッドパーツなど、頭に飾りを付けることに抵抗がある方も多く、そんな方にダイヤモンドのティアラを勧めても、窮屈な気分にさせてしまいかねません。普段、ナチュラルメイクの方に、最初からアイラインをばっちり引いてしまうと、拒否反応を示されたりもします。

そのため、アクセサリーが苦手な方にはパールの1粒イヤリングからスタートして、少しずつ大ぶりな物に慣れていただいたり、普段、ナチュラルメイクの方には最初はブラウンのアイシャドウから始めて最終的にアイラインに抵抗がなくなるようにするなど、段階を踏んで提案すると、慣れていただけたりしますね。その上で、お客様が受け入れられる範囲で最大限、華やかに見せられるヘアメイクを考えています。

普段の自分とあまりにもかけ離れたヘアスタイルやメイクをすると、不安になってしまい、せっかくの結婚式なのに表情も硬くなってしまいがちです。非日常感は、ウエディングドレスを着るだけでもかなり演出できるので、ヘアメイクは、日頃から花嫁を知っている家族や親戚、ご友人の方にも「〇〇さんらしい」と感じていただけるように心掛けています。

ヘアメイクだけでは統一感を出せないので、ドレスショップでの小物合わせに同席してベールやアクセサリーを見立てたり、ブーケのデザインなども提案しています。
たとえば「休日はピクニックに行くことも多くて、緑溢れるスポットが好き」といった方に、バラだけを束ねたラグジュアリーなブーケなどは、あまりにも普段のイメージとかけ離れてしまうと思います。必ず「その人らしさ」を把握した上で提案するようにしていますね。

ーヘアメイクリハーサルの前に、ドレスショップでの小物合わせにも同席してくださるんですね。どんな提案をされているのか、具体例をお聞きできますか?　
優香　そうですね。小物合わせに同席できなくても、カウンセリングしたりして、ヘアメイクリハーサルの前に一度、お会いしているケースが多いです。

小物合わせに同行すると、どんな花嫁になりたいのかが分かったりします。たとえば、パールを選ぶ方はフォーマルにしたいのかな、ヘッドパーツを生花にしたいという方はナチュラル、カジュアルなスタイルを求めている?インパクトの強いアクセサリーを手に取る方はおしゃれに見られたい?という風に想像できて、ヘアメイクのヒントにもつながります。

ただし、ティアラにしても生花にしても、普段は着けないアクセサリーなので、それぞれ、どんな雰囲気になるのかを、的確にイメージできる方は少ないと感じます。そのため、最初に希望していたのとは別の小物を選ぶケースも多いです。
たとえば、最初「髪に生花を着けたい」とおっしゃっていたけど最終的にはティアラに決めたお客様もいらっしゃいます。

このお客様は清楚さを求めていらっしゃいました。ティアラに対しては「おとぎ話のプリンセス」のようなかわいらしい印象を持っていたので、白い生花などの方がイメージに近いと思っていたのです。
でも実際に、当日の予定と同じようにヘアメイクしてティアラを乗せてみると、すごくフォーマル感があって、そのお客様が描いていた花嫁像に非常に近かったので、ティアラを着けることになりました。

ー「ティアラや生花を着けたことがない」のも当然ですが、ドレスなど花嫁衣裳を着るのも初めてのことですよね。「どんな花嫁になりたい?」と聞かれても明確なイメージを持っている方は少ないのではないでしょうか?
優香　どんなヘアスタイルやメイクにしたいのかは、必ず質問していますが、その答えを鵜呑みにはしないようにしています。非日常のことなので、全ての方がご自分に似合うスタイルを的確に理解しているとは限らないからです。「どんな花嫁になりたいか?」よりも「なぜそうなりたいか?」という理由を知る方に重きを置いていますね。

たとえば、「ティアラを着けたい」というお客様にグリーンの生花でかたどったティアラをおススメしたこともあります。　
このお客様はお母様も「ティアラを」とおっしゃっていましたが、普段のお客様は、ふわっとしたリネンの服にかごバッグといった装いでナチュラルな雰囲気。フォーマル感の強いティアラには違和感がありました。
話を詳しく伺ってみると、ティアラを着けてほしいというよりは、「きちんと感」を出したいというのが真意だと分かり、生花をティアラ風にアレンジするというアイデアも受け入れていただけました。

結婚式にまつわるショッピングは初めてのことだからこそ、お客様の言葉の奥にある真意を汲み取ることが重要だと思います。

【Case Study 1】挙式はボンネ&ベールで思い切り清楚に

ー普段と違う自分を表現したいというお客様もいらっしゃると思います。意外性を表現することはありませんか?
優香　一口に「その人らしさ」と言っても、家族、友人、会社の上司や同僚など、相手によって、見せる表情は変わるものです。挙式・披露宴・二次会と、1日の中でその人の色々な面を見せられるように、どんどん変えていけるのもヘアメイクの楽しみの1つ。

そうすることで、ゲストの方にも「こんな面があったんだ」「こんなに変わるんだ」と楽しんでいただけると思います。お客様にも「1日で全ての「あなたらしさ」を見せましょう!」とお伝えしています。

【Case Study 2】トレンド感のあるアップスタイルでゲストの歓声を誘う

1つ、具体例を紹介してみましょう。
挙式はご両親や親族ゲストを意識して、ボンネ&ベールの思いきり清楚な雰囲気に。披露宴は、トレンド感のあるアップスタイルにピンクのブーケを合わせて、友人ゲストの歓声を誘います。
二次会は、大ぶりのイヤリングに南国風のブーケでパーティー感を演出。メイクもスタイルやテーマに合わせてナチュラルにしたり派手にしたりして、花嫁様の色々な面を表現しました。挙式から始まってどんどん自己解放していくようなイメージです。

【Case Study 3】二次会は、大ぶりのイヤリングに南国風のブーケでパーティー感を演出

ーセレーノさんのヘアメイクリハーサルでは「決めない」こともあるんですよね?決めることと決めないことの境目は何でしょうか?
優香　たとえば、口紅の色などは当日まで決めないことも多いですね。唇の色は朝と夜でも違いますし、結婚式直前の緊張した状態とリラックスしている状態でも変わります。緊張すると唇が赤くなる人もいれば、真っ青になる人もいる、体質によっても違います。そのため、リハーサルでは衣裳に合わせてオレンジ系や赤系など方向性だけを決めています。

リハーサルでは実際の衣裳と合わせることはできないので、衣裳とのバランスも厳密には見られません。たとえば、和装の場合、普段と同じ色の口紅だと、衣裳とのバランスで血色が悪く見えることもあります。当日、着物に合わせて「この色がぴったりですね」などと見ていただきながら決める方がフィットします。
そのかわり、その他の部分は、たとえば、眉の形や眉山のテイストなどは毛の一本にいたるまで、新婦様が「そこまで!?」と驚かれるぐらい細かく決めています。

もちろん、「あとは当日」というワードばかりだと不安を与えると思いますが、他の部分をかなり細かくリハーサルした上で「ここはプロにお任せいただけませんか?」とお伝えしているので、決めないでおくこととその理由についても納得していただけますね。

ウエディングドレスやジュエリーの広告撮影も手掛けている

ーヘアメイクだけでなくアクセサリーやブーケまで、トータルコーディネートするには様々な知識が必要ですよね。アイデア力や提案力をどのようにして磨かれていますか?
優香　ブライダルだけでなく、ジュエリーやウエディングドレス、結婚式場などの広告撮影の仕事も手掛けていることが、様々なアイデアにつながっているのかもしれません。
広告のビジュアルは流行を先取りしているケースが大半なので、「こういうのが来季のトレンドか」と勉強になったり、新作ウエディングドレスの広告撮影に携わると、初めて見るようなレースにマッチするヘッドパーツやイヤリングなども見られるので、お客様への提案の参考になります。
　
広告の仕事は、ヘアメイクだけで完結することはほとんどありません。PRしたいドレスやジュエリーとのバランスやブランディングなど、全体を把握した上でスタイリングが求められるので、ブライダルのお客様にもトータルコーディネートを提案できるのではないかと思っています。

セレーノでは、ヘアメイクを担当させていただくことが決まったら、何でもアドバイスするというスタンスなので、メールなどでのご相談も受け付けています。リハーサルは1ヵ月～2ヵ月前ですが、ドレスが決まった頃からお客様とのやり取りが始まるというのが一般的です。時にはドレス選びからアドバイスを求められることもあります。
会場装花やブーケに関するご相談はもちろん、お母様に似合う留袖の意見を求められることもありますね(笑)

ー自分らしいヘアメイクに出会うために、これから結婚式を挙げる花嫁へのアドバイスをお願いします。
優香　自分を客観的に知ることでしょうか。
1から10まで「こうしたい」と指示するのではなくて、自分の趣味や好みを自覚して、そのスタイルが得意なアーティストを探す、あとは、そのアーティストを信じて任せるというのがベストな道だと思います。

たとえば「ばっちりメイク」と言っても、どのぐらいを「ばっちり」と言うのか、人によって違ったりしますが、一般的なラインはあるものです。自分の感覚が一般的な感覚とずれていることも少なくありません。周りからどう見えているのかを知るのも、自分の好みを自覚する第一歩ではないでしょうか。
結婚式の準備期間ほど、その道のプロの方々に自分のことを細かく質問されることはないと思います。「どんな花が好き?」「パーティーの雰囲気は楽しい方がいい?それともフォーマルな雰囲気が好き?」「休日は何をして過ごしている?」など細かく聞かれるので、人生の中で最も自分自身を掘り下げて考える機会になるのではないでしょうか。

「好きな色は赤」と思っていても、青のカラードレスを選んだことで「実は青が好きだったのかも」などと、自分を再発見する方も多いです。1つ1つの質問に真剣に向き合うことで、自分を客観的に見つめる機会にもなり、自分の好みもクリアになって、ヘアメイクだけでなく全ての打ち合わせがスムーズに進むのではないでしょうか。

国際文化理容美容専門学校を卒業後、2005年よりヘア&メイクアップアーティストとしてキャリアをスタートさせる。2016年に独立後、Hair Make Serenoを設立。『Oggi』『CLASSY』『25ans Wedding』『Hotel Wedding』『美STORY』を始めとする雑誌の撮影他ドレスショップ『NOVARESE』『BRIDARIUM MUE』『Cli`O mariage』『innocently』『Emarie』などのカタログ撮影、新作発表などのショー、講習、TV番組など、あらゆるヘアメイクのフィールドで幅広く活躍している。