白無垢や色打掛といった花嫁の和装はルールや作法が多そうで、また、自分に日本髪が似合うのかといった不安もあって、一見、ハードルが高く感じられるかもしれません。でも、アレンジや全体のコーディネートによって十分、自分らしさを表現することができます。
ここでは和装の髪型やメイクの注意点といった基本から、洋髪など髪型のバリエーションやおすすめの和装コーディネートまで紹介。和装を自分らしく、イマドキっぽく着こなすためのワンポイントアドバイスもプロに聞いてきました。
【アドバイスしてくれた人】
アトリエはるか:佐々木千佳予さん
円居(まどい):狩野麻紀子さん
Circles Wedding:山口麻梨さん
■ 和装の髪型の基礎知識
和装の髪型は大きく日本髪と洋髪に分かれます。日本髪はかつらか地毛結いを選べますが、大半はかつらを選んでいるようです。地毛で結うと、お色直しでドレスに着替える際にヘアチェンジに時間がかかってしまったりするのも大きな要因です。
日本髪には、伝統的な「文金高島田」と現代風のアレンジを取り入れやすい「新日本髪」があります。たとえば、文金高島田のバックスタイルは「髷」なのに対し、新日本髪ではシニヨンを2、3コ並べるなど、自由にアレンジできます。
花嫁の象徴とも言える綿帽子や角隠しはその上につけます。
綿帽子はドレスでいうとベールのような役割があり、挙式のみ着用可能、合わせられるのも白無垢のみです。洋髪の上につけることもできます。
角隠しは頭の周りを覆う白い布。白無垢、色打掛、引き振袖のすべてに合わせることができますが、髪型は日本髪のみです。
洋髪はシニヨンや編み込みなど現代人が日頃から慣れ親しんでいるヘアスタイル。より身近な感覚で和装を楽しむことができます。
■ 白無垢は清楚に、色打掛は遊び心を取り入れた髪型に
白無垢は神前式などの挙式、色打掛はお色直し時と、着るシーンが異なるため、髪型やメイクで気を付ける点も変わってきます。それぞれ、どんな点を押さえておけばよいのか、ポイントを紹介します。
「白無垢」おくれ毛は最低限にしてすっきりまとめよう
白無垢は神前式などの挙式で着用することの多い最も格式の高い婚礼衣裳です。特に神前式で着る場合は、神聖さや厳かさが不可欠です。
綿帽子や角隠しは和装ならではのヘアスタイルなので、白無垢の格式や神前式を挙げる神社との相性もバッチリですが、洋髪にする場合は崩しすぎない髪型がおすすめです。
カールの多い「ふわふわスタイル」やあえてゆるくまとめておくれ毛を出すようなスタイルよりも、「夜会巻き」のようにまとめ髪の表面にツヤが出るような「きちんと感」を出す方が上品に仕上がります。
神前式の見せ場のひとつである三々九度は、横顔も美しく見せたいもの。特に顔回りはすっきりさせて清楚な印象を目指しましょう。
【アトリエはるか・佐々木さんのワンポイントアドバイス】
お客様からは「顔の両脇におくれ毛を出して小顔に見せたい」という要望が多いのですが、出しすぎるとルーズな印象になります。全部まとめてしまうヘアスタイルにどうしても抵抗がある場合は、ヘアメイクリハーサルなどで少しずつおくれ毛の量を減らしていき、自分が納得できるバランスを調整することをおすすめします。
「色打掛」髪飾りで自分らしさを出す 水引きなど和のテイストがトレンド
色打掛は、披露宴の中盤、ウェディングドレスや白無垢などからのお色直しで着る人も多く、白無垢よりも自分らしさや遊び心を取り入れやすい衣裳です。
ただし、和装はうなじを美しく見せるられるよう「襟を抜く」着付けがポイント。そのため、髪型はアップスタイルが主流となり、ドレスのようなダウンスタイルを選びにくくなるため、バリエーションが狭まりがちです。
そこで、個性を表現できるポイントになってくるのが、髪飾りやメイク、小物のコーディネートなど。
「最近は洋髪でも和のテイストを取り入れるのがトレンド」と言うのはCircles Weddingの山口さん。髪飾りに「水引き」を使いたいという要望が増えているのも、そのトレンドの象徴だそうです。「水引き」は贈答品などにかける飾り紐。髪飾りにする場合、リボンや花、波など形を自由につくれたり、髪の毛と一緒に編み込んだりすることもできるため、スタイリングの幅が広がります。なかには「水引き」をドライフラワーと組み合わせたいという人もいて、ドライフラワーのアンティーク感が和モダンな雰囲気を演出してくれると言います。
花を髪飾りにする場合も、胡蝶蘭や「ピンポンマム」という小ぶりの丸い菊など、和を感じさせるものが人気。百合など大ぶりな花を主役にするより、小ぶりな花を散らすようなスタイリングがトレンドです。
和装の場合、ブーケは持たない、またはボールブーケや扇子ブーケなど選択肢が限られていましたが、最近は、クラッチブーケなどウェディングドレスの場合とほぼ変わらないほど、コーディネートの幅が広がっています。ブーケと髪飾りをリンクさせるコーディネートも楽しみやすくなっているのではないでしょうか。
【Circles Wedding・山口さんのワンポイントアドバイス】
和装の場合、すっきりした髪型の方が小顔に見えるので、色打掛でも顔回りなどにおくれ毛をつくるより、潔くまとめるスタイルをおすすめします。
トレンド感を出すコツは顔回りの「立体感」。たとえば、前髪を斜めに流す場合も額に張り付くようにスタイリングするのではなく、少し浮かせて束感を出す方がイマドキな印象を与えられます。
■ 日本髪を自然に現代風にスタイリングするコツ
日本髪は、和の花嫁を象徴する髪型、且つ、花嫁だけに許される特別なヘアスタイルです。SNSでも「ウェディングドレス×ふわふわスタイル」がほとんどのなかで、日本髪の花嫁はひときわ異彩を放ち、「みんなと一緒はイヤ」「伝統的なスタイルがかえって新鮮!」と感じる花嫁に支持されているようです。
ちなみにアトリエはるかでは、和装を選ぶ花嫁が洋髪ではなくかつらを選ぶ割合は約半数、神前式をする場合は6、7割に上るとのことでした。
でも、普段はしない髪型なので似合うかどうか不安もありますよね。ここでは日本髪を自然にイマドキ風にスタイリングするコツを紹介します。
・かつらの場合は生え際に注意!
かつらをかぶった時に違和感を覚えやすいのは生え際です。額やもみあげの生え際にどうしても境目が出てしまうからです。結婚式当日は綿帽子や角隠しをするので、額やもみあげなどの生え際は隠れますが、それでも気になる場合は、「半かつら」や「地毛結い」という方法もあります。
「半かつら」
生え際を地毛で結うため額やもみあげの境目は気になりません。
「地毛結い」
すべて地毛で日本髪を結うスタイル。肩より少し長めで髪の毛が多めの人におすすめです。
【アトリエはるか・佐々木さんのワンポイントアドバイス】
かつらでも、真っ黒でなく明るい色みのバリエーションが増えていたり、一人ひとりの頭や顔の形に合わせて結い直すサービスも出てきています。
真っ黒でボ真っ黒でボリュームも大きい「ベタッ」とした印象のかつらだと、重く古臭い印象を与えがちですが、普段の髪色に近い明るめのものを選んだり、抜け感を感じさせるように結い直すことで、不自然さや古臭さを感じさせないスタイリングが叶いますよ!
・髪型のボリュームは全体のバランスで決まる
特に、綿帽子や角隠しなどは、ボリュームがあるため頭が大きく見えてしまうのも悩みどころ。原因は髪型だけにあるのではなく、全体のシルエットとのバランスにあります。以下のようなポイントに注意が必要です。
でも当日、着付けてくれるのは美容師さん。自分で選ぶ場合はインスタグラムなどで過去作品を見たり、式場から割り振られる場合は卒花嫁さんのアルバムを見せてもらうなどして、その美容師さんの着付けセンスに納得したうえで依頼したいところです。
「着物の着付けでウエストや胸にタオルを巻くケース」
シルエットが実際の体型よりも大きく見えてしまうため、全体のバランスを取るために髪型もある程度ボリュームのあるスタイルになりがちです。
「着物の種類が『染め』か『織り』か」
質の良い正絹を使った「染め」の着物は生地が柔らかくストンと体に沿うのに対し、「織り」の着物はハリのある生地でシルエットも大きくなりがちです。「染め」の着物でも、生地がポリエステルなど化繊の場合は着心地がごわごわしてしまうことがあります。
「綿帽子のかぶり方」
顔がはっきり見えるようにとのことから、頭の上にちょこんと載せるようにして額の生え際が見えるようなかぶせ方をしたり、洋髪の場合は形を整えるために「ピーコック」とよばれる補正器具を仕込んだりすることもあり、そうすると余計に頭が大きく見えてしまいます。
【円居・狩野さんのワンポイントアドバイス】
綿帽子も角隠しもあえて形を整えすぎず、自然な陰影を活かすようにスタイリングすることで頭だけが強調されないことに加え、和の花嫁の奥ゆかしさまで表現されます。髪型のボリュームを抑えて小顔に見せたい人は、全体のシルエットもすっきりと見えるような生地や着付けをリクエストしてみましょう。
■ 「伝統+自分らしさ」を楽しむ和装コーディネート
和装はこうあるべきといったしきたりにとらわれすぎて、楽しめないのはもったいないこと。CORDYが取り扱う「円居」の昭和初期のアンティーク着物は、コーディネートも型にとらわれず楽しむ感度の高い花嫁に支持されています。
円居で和装を選んだ花嫁の、コーディネート実例を紹介してみます。
「ショートカット×シルバーピアス」
和装といえば日本髪やアップスタイルがイメージされ、髪の毛も長く伸ばさなければならないように思いがちですが、ショートカットでセンスよく着こなす花嫁もいます。写真の花嫁には、日頃から着けているシルバーのピアスも、本人のスタイリッシュな雰囲気が強調されるとの考えから、外さないよう提案したそうです。
ボブヘアならレトロなムードの「フィンガーウェーブ」もおすすめ。アンティーク着物との相性も抜群です。
「低めシニヨン×シンプルパールの髪飾り」
低めのシニヨンに髪飾りはシンプルなパールのみなど、あえて装飾を抑えてとことんナチュラルにまとめると、大人の女性の落ち着いた雰囲気が際立ちます。シンプルなまとめ髪は首を長く見せる効果もあるため、すっきりと着こなすことができます。
刺繍入りの半襟など顔まわりを華やかにコーディネートすることで地味な印象は避けられます。
「白無垢×玉ねぎヘア」
ポニーテールの毛先にぽんぽんと丸い膨らみをつくる「玉ねぎヘア」を白無垢に合わせた花嫁も。当日は前髪を眉毛より短くカットし、より個性的な印象になりました。大振りな花の刺繍が印象的な白無垢や、会場として選んでいた歴史ある洋館との相性もよく、白無垢をモダンに着こなしています。
ほかにも印象的だったのは、オレンジレッドに染めた地毛をそのまま活かして引き振袖と合わせた花嫁。コンクリート打ち放しのクールな会場にもぴったりだったそうです。「引き振袖などはカラードレス感覚で自由に着こなしていただく人も多く、和装も現代のライフスタイルに合わせて、自由な発想で着こなしいただきたいですね」(「円居」狩野さん)
-まとめ-和の伝統的なスタイルにヘアメイクで個性を
花嫁和装は、両親や祖父母世代に喜ばれることに加え、洋装とは異なる華やかさに新鮮味を感じる花嫁も増えているようです。特にインスタグラムではウェディングドレスやカラードレスの投稿が多いなか、和の花嫁が登場すると思わず目が留まります。円居では、日本髪やかつらをリクエストするのはむしろ若い世代の花嫁が増えているそうです。
和装小物や着付けなど作法やルールはあるものの、ここで紹介してきたように髪型やメイクについてはアレンジの余地があります。和の伝統的なスタイルにヘアメイクで自分らしさをプラスして花嫁和装を楽しんでみてはいかがでしょうか。
<教えてくれた人>
・アトリエはるか
結婚式の参列や家族のイベントなどで利用できる、ヘアメイク&ネイル専門店を全国62店舗展開。ブライダルヘアメイクは経験豊富なトップアーティストが担当し、両家顔合わせや前撮りなどを、当日の担当者に依頼することもできます。結婚式までに何度もスタイリングしてもらうことで、きめ細かいフォローやカウンセリングを受けられ、当日までに信頼関係も深められます。
・円居
昭和初期のアンティーク着物を中心に取り揃えている着物レンタルの専門店。婚礼だけでなく、成人式の振袖や卒業式の袴、訪問着なども展開しています。エリアによっては着付けにも対応しており、ストンと落ちるシルエットが特長の同店の着物に合わせたナチュラルにスタイリングしてくれます。日本髪の地毛結いにも対応しており、要望があればヘアメイクリハーサルで結ってもらうこともできます。
・Circles Wedding
年間100組以上の新郎新婦を担当し、ヘアメイク~ドレス、花嫁美容まで含め、トータルプロデュースをしています。ヘアメイクを担当する山口麻梨さんは、2007年より福岡にてスタイリストとしてヘアカット業務に約5年間従事。 その後、フリーランスのヘアメイクアーティストとして映画やTVの現場の経験も積んできました。